おぼれる原因は出血だった

溺死・・・耳の奥に出血がある

以前は、
おぼれて死ぬと、みな心臓麻痺で片付けられていた。(中略)

溺死体を多く解剖していくうちに、共通する1つの症状があることに気づいた。

それは耳の奥に出血があるということだった。
出血していたのは、三半規管を取り囲む錐体という骨だ。



骨も出血するのである。

これを割ってみると、軽石のように多くの穴があいており、その内側には粘膜でおおっている。粘膜の中には毛細血管があり、これが出血していたのである。(中略)

ボートが転覆して、水の中に落ちてしまうと、あわてふためき、鼻や口から水を飲み込んでしまう。

鼻から入った水は、耳管の中に入っていきやすい。

耳管は細いパイプのため、ここに水の栓ができてしまう。

そこで無意識に嚥下運動を繰り返すと、水の栓が耳管の中でピストン運動を始めることになる。

そうすると錐体という骨のまわりは空気でつながっているため、ここに陰圧・陽圧が繰り返されてしまう。

その結果、陰圧によって錐体の中のオブラートのような粘膜と毛細血管がバリバリと剥がされて出血を起こす。

これが錐体内出血だ。

出血が起きると、三半規管はうまく働かなくなる。

 

(上野正彦著「ヒトはこんなことで死んでしまうのか」p118~)

2017年07月26日